忍者ブログ
更新情報や日々の徒然雑記

2024

0519
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2006

0729
最初に考えていたストーリーにつらつら書いたお話。
今ではまるきり違ったりする恐ろしさ(汗)
性悪がなにやら愁えています



 静かだ。
 静かすぎて、いま自分の生死すらも見えなくなるときがある。常に感じる虚無、つきまとう喪失。気が狂うのではないかとさえ思うが、それでもまだ、僕は僕を見失わない。しぶとく、己にしがみついているとでも言うのか。
 足音が聞こえては遠ざかる。決して部屋の中に踏み込んでは来ない。永遠に自分だけの世界が広がっている。何の面白味もない空間。時間の流れから切り離され、変化することを忘れてしまった場所。
 同じ時間に目覚め、朝食を取り、昼食を取り、お茶を飲み、夕食を取って眠る。運ばれてくる食事は常に変わらないもの。豪華でもなく、当たり障りのない味気ないものばかり。そう感じてもしかたがない。三食それぞれ内容は異なるものの、毎日出されるものは同じだ。さすがに飽きがくる。
 いったい何の意図が含まれているのやら。彼は僕をどうしたいのか、理解できない。
 書物は一切ないので、食事以外にすることといえば考えることだけ。記憶を掘り返しては、新しいものを探してみる。それでもいつか思い出は尽きてしまう。飽きないよう、長く保てるように一日に少しずつ、過去を振り返った。
(アイリス)
 髪の長い、元気な女性。一つ思い込むと、他が目に入らなくなってしまう一直線な人。面倒見はいいが、少々愛情表現が過激なことが問題か。大切な人を大切にしすぎるようになったのは、ひと月前ほどからのこと。まだ彼女は傷を引きずっているのだろう。仕事をしているのが不思議がられながらも、精力的に活動しているのではないかと想像する。その顔に曇りなどは見えない。だが立ち直れてはいないはず。誰かが彼女を必要として、彼女にとって悪夢しか呼び込まない城に引き止めている。
(シスタ)
 アイリスに背中を叩かれるたびにシスタが頬を引きつらせていた。きっといまもその関係は変わることがないだろう。シスタがいたからアイリスも多少は気分転換になっているのかもしれない。もっとも、シスタからしてみれば嬉しくないだろう。
 シスタは温厚で優しげなので、無意識ですぐに女性を引きつける。誰かに「好きです」と泣きつかれては、シスタが泣きそうな顔で対応していた。紳士であるということも罪深いのか。そんな彼も彼で問題を抱えている。今は何の仕事をしているのだろうか。彼はこの城を嫌っているのに、我慢してまでとどまる理由があるのだ。
 そもそもシスタがこの城に来た原因、とでも言おうか。それは僕にある。無理に連れてきたのではないが、さすがに思うところはある。彼はきっと、今も同じ思いで城にいるのだろう。
(……イラギ)
 閉じ込められてから考えることは少ない。日数を数えることと、閉じ込められた理由を考える程度で、イラギ本人に対してはあまり深く考え込まないことにした。そんなことをすれば、すぐに自分がダメになってしまう。
 彼はいまも一人で執務室にこもっているのだろうか。放っておくと、仕事が完全に終わるまで延々と続けている人だ。体調を崩しているかもしれない。共に一つのことに取り組んでいたときも、よく目の下に隈を作っていた。誰かが気を配ってくれていることを願うばかりだ。
「やあ、ルピナス」
 唯一、話しかける相手になる鳥は、僕の伸ばした腕には止まらなかった。僕は苦笑する。せっかく、今日初めの一言だったというのに。
「僕は嫌われる運命にあるのかな」
 誰もが自分から離れていく。それならまだマシなほうだ。敵意を向けられるときさえある。
 もう幽閉されてからもう間もなくひと月。その間、イラギからの接触は一度もなかった。何の変化もないまま、命尽きるまでこの部屋にいさせられるのかと思うと、いてもたってもいられなくなる。理由を告げず檻に入れられた。部屋を出ることさえかなわず、話し合う機会さえ与えられない。
 ルピナスは悲しげな顔をする僕の目の前に止まった。人と会話をするのも遠い過去のことで、自分が言葉を忘れているかのような錯覚をする。たまにルピナスに声をかけては、返事のない答えをいつまでも待ち続けていた。
「それも、もう……」
 疲れてしまった。孤独を感じさせる部屋で、毎日彼が訪れるのを待っている。その日が終わるたびに、ゆっくりと目を閉ざし、次の日を待つ。期待が裏切られ続けてなお、それでも待つことを選んだ。だが、これ以上は待てない。
(君が来ないなら、僕が会いに行こう)
 テーブルに用意されたカップに注いでおいたお茶を口に含む。少し、冷めていておいしくはない。このお茶に毒でも混入されていれば、楽になれるだろうか、と考えて苦い笑みをこぼす。自分らしくない考えに、心が相当参っていることに気づかされた。
 部屋の外には見張りが二人。交代してくる者もイラギの私兵だ。話して分かり合えず、細腕では力ずくで押し通れない。他に方法を探せども、役に立つものが何もない。部屋には一切余分なものがなかった。すべてはたった一人を逃がさないため。ずっと気づきながらも黙認していた。いつかは部屋から出られるのだろうと思っていた。
(君には初めからそんな気はなかった)
 鳥かごの鳥だと勘違いしているのであれば、訂正してもらわなければならないだろう。そのためにも、外部の者たちと接触をはかる必要があるが、頼れるのはルピナスだけというのが心もとない。イラギに見つかれば、さらに警戒が厳しくなる。
 ぼんやりと考え込んでいた僕に、ルピナスが高い声で鳴いた。
「別に考え込んでいないし、現状に対しての文句もないよ」
 嘘ばかり。表面を飾り立てたところで、この友人にはばれてしまう。分かっていたから、困り顔で微笑んだ。もう何も尋ねないで欲しい。醜い姿しかさらけ出せないのだから。
 しかしルピナスは再び高く声を上げた。それと同時にベランダ側の扉が勢いよく開かれ、明るい声が部屋を覆っていた孤独を消し去った。
「こんにちは! 悠々亭です!」

 一筋の光が差し込んだ瞬間だった。

PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新記事
忍者ブログ [PR]
* Template by TMP